Saturday, May 26, 2012

医学生が考える医療シリーズ「第1回:ホメオパシーは再び患者を殺す」その2


「第1回:ホメオパシーは再び患者を殺す」その1を読む。

このように我々が現在持っている「科学」では効果が測れないものはあります。そのひとつがホメオパシーであったって何の不思議もありません。

それでは一体何を使ってホメオパシーの効果を測れば良いのでしょうか。

その答えが「統計」です。

「統計」と言われてもアンケートや世論調査などを思い浮かべる方がほとんどでしょう。しかし統計は科学とは切っても切り離せない関係にある極めて重要なものなのです。

例として次の広告を考えてみましょう。

「痩せたい女性100人を募集し新製品Aを1ヶ月摂取してもらった結果体重が平均で 4.5 kg減った」

こんな広告、よく見ますよね。

あら、平均で4.5kgも!!ステキ!!私も使ってみようかしら!!!


…でもちょっと待ってください。

新製品Aを摂取して平均 4.5 kg体重が減少と書いてありますが、ただでさえ痩せたいと思っている女性なのですから、もしかするとその人達は新製品Aを摂取しながらものすごいエクササイズをしたのかもしれません。もしかしたら元々みんな体重が 100 kgくらいで 4.5 kgくらい痩せるなんて大したことではなかったかもしれません。或いは途中であまり痩せてこなかった人たちをリストから外したのかもしれません。

このように一見すると何の問題のない広告にも数々の問題があることがあります。

このような問題を防ぎきちんと物事の効果を評価するために統計を用います。

ではこの統計とは具体的にどのように用いられるのでしょうか。

風邪を引いたらおばあちゃんが葛湯を作ってくれて、それを飲むと不思議とすぐに治った…、皆さんにもこのような経験がありませんか。

このように本来は効能を持っていないものを飲んでもそれを薬だと言われて渡されると何故だが少し効いてしまうことを「プラシーボ効果」と言います。

つまり、新薬が開発されてそれに本当に効果があるか調べる際にお医者さんが「いやぁ、新しい薬が出てねぇ!!これが効くかどうかを調べますよ!!」と言いながらやったのでは患者さんは「ああ、新しい薬だからきっと効くんだ!」と思い込んでしまうので、仮に効果があったとしても、それが本当に薬の効果なのかそれともプラシーボ効果なのか分からないのです。

このプラシーボ効果の影響を防ぐために行われるのが「二重盲検」と呼ばれる手法です。これは新薬Aと偽薬B(見た目はそっくりだが全く効果のない薬。プラシーボ)を用意し、医師にも患者さんにもどちらを投薬したか分からないようにし、試験が終わって初めてどちらを投薬したか明らかにすることでプラシーボ効果の影響をなくしています。患者さんだけでなく医師側にもどちらを投薬しているか教えないのは医師の何気ない所作で患者さんが新薬なのかプラシーボなのかを悟らせないようにするためです。

また、恣意的に新薬Aの治験対象を状態の良い、治りやすい患者さんばかりにしてしまってはあからさまに新薬Aの結果が良くなってしまうに決まっています。これを防ぐためには新薬A群と偽薬B群をランダムに分けなければなりません。これら一連の流れをランダム化比較試験RCT: Rondomized Controlled Trial)と言います。

基本的に治療の効果はこのような統計手法によって測られ、どれくらい厳格に行われているかどうかをエビデンスレベルという尺度で表します。エビデンスレベルの分類は最も信頼性が高いのがIaで順次以下のように表されます。


難しい言葉がたくさん書いてありますが、取り敢えず先程のランダム化比較試験(以後RCT)のエビデンスレベルはIbですね。

注目していただきたいのはIaとIVです。RCTだけでもかなり信頼性がありそうなものですが、それでもサンプル(試験に参加した人数)が少ないとか、計算手法に問題があるという恐れも否定出来ないので、そのRCTをいくつかまとめてきちんと調べたシステマティックレビューが最も信頼性の高いIaとなります。

逆に専門家委員会や権威者の意見はエビデンスレベルの最も低いIVとなります。意外に感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。簡単に言ってしまうとどれだけアカデミックの世界で名を知られた大研究家であっても主張するだけではエビデンスレベルはIVです、どれだけやいのやいの言っても学生が行った実験未満です、便所紙です。

さて、ホメオパシーに対しては第二次世界大戦中から今日に至るまで数十年の長きに渡り幾度と無くRCTが行われてきました。そこでホメオパシーは「プラシーボとの有意差なし」すなわち、「ただの砂糖玉を摂取してもホメオパシーのレメディを摂取しても結果に変わりは全くない」ということが示されました。

とどめを刺したのは the Lancet、New England Journal of Medicine に次ぐ医学雑誌で最も権威のある雑誌のひとつで、2005年に今まで行われてきたRCTをまとめてシステマティックレビューを行い、「やはりホメオパシーに薬効はない」と結論づけました。エビデンスレベルは最も高いIaです。


科学ではうまくホメオパシーの効果を測ることができませんでした。しかし、統計学を使ってついにホメオパシーで使われるレメディは単なる砂糖玉であるということが示されたのでした。

ここまで読んで下さった方の中にはもしかしてホメオパシーを使ったことがあるかもしれません。「確かに私には効いた!!」と仰りたい方もいらっしゃるでしょうが、それは十中八九「気のせい」つまりプラシーボ効果です。どれだけ「私には効いた!!」と仰っても残念ながら統計学的には便所紙以下です。

世界は広いですからもしかして本当の奇跡が起こって症状が劇的に改善した方もいるのかもしれません。本当に素晴らしいことです。それはまさに「奇跡」です。皆に平等に起こることは奇跡とは言いません。他の人に勧めてもその人には奇跡は起こらないでしょう。

「第1回:ホメオパシーは再び患者を殺す」その3を読む。

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