Monday, November 10, 2014

医学生が考える医療シリーズ第2回「近藤誠先生はただの詐欺師に成り下がってしまった」

元慶應大学医学部講師で「患者よ、がんと闘うな」などの著書で有名な放射線科医師である近藤誠先生が、先日新刊「がんより怖いがん治療」を出版し、大きな物議を醸しています。

近藤先生は過去に日本で乳癌に対して行われていたハルステッド法という乳房をバッサリと切り取ってしまう手術に異議を唱え、放射線治療などを組み合わせることで乳房を温存する部分乳房切除術を推進した第一人者で、私も大学入学当時は偉大な先人としてとても尊敬していました。

そんな近藤誠先生ですが、とても残念なことに近年では意図的に嘘をつき、藁にもすがる想いの患者さんを騙す、ただの詐欺師に成り下がってしまったと私は思います。

振り返ってみると異変は数年前から見られていました。当時近藤先生の主張しておられたことは「ガンに対する手術療法は患者さんの生活の質を損なう可能性がある。何でもかんでも切れば良いというものではない」といったもので、私もウンウン、全くもってその通りだと頷いていたのですが、それが徐々に「ほとんどのガンは放置しておけば消える『ガンもどき』だ。従って治療もせずに放置すればよい」という主張に変わっていきました。

これは極めて危険な考え方です。要は「転移していない状態で発見されたガンは、そもそも転移する能力を持たない『ガンもどき』であるから治療せずに放置していても勝手に治る」といった内容らしいのですが、もしそれが本当なら大学病院でよく見る「数年前に早期病変が指摘されていたが放置して肺転移を契機に診断された◯◯癌の患者」という不幸な紹介状は存在しないはずです。

決定打となったのは近藤先生が出演したとあるテレビ番組での発言です。近藤先生はとあるフリップを見せて「このように癌はほとんど進行しないので乳癌の手術などする必要がない」と説明していたのですが、あろうことか、その説明に使用したフリップは乳癌ではなく前立腺癌のデータだったのです。

これはもう、とんでもない詐欺行為だと言わざるを得ません。

前立腺癌は進行が極めて遅い癌として有名で、欧米では見つかっても手術をしないことがあるくらいゆっくりとしか成長しません。実際、患者さんが老衰で亡くなられた後、病理解剖してみて初めて発見されることがあるくらいです。私も自分自身に早期の前立腺癌が見つかったら手術をせずしばらく様子を見るか、仮に進行するようでも放射線治療を行い手術は行わないかもしれません。

対して乳癌は早期に発見されればほぼ確実に治りますが、発見されてから進行するまでが極めて早く、進行例では脳や肺など身体中に転移し、治癒不可能となって亡くなってしまうとても恐ろしい疾患です。

今回発刊された「がんより怖いがん治療」でもこのデータは意図的に誤用されており、あまりの不誠実さに本当に怒りを覚えます。

癌と診断されこれから自分はどうなってしまうのだろう、手術や抗がん剤を受けるのは恐い…そのような不安に苛まれているところに近藤先生のような人に「大丈夫ですよ、治療なんかしなくてもいいんですよ」と甘い言葉を掛けられたらそちらに流れてしまってもなんら不思議ではありません。

そのような患者さんが本来治療すれば完治していたかもしれない疾患を放置した結果、もう手の施しようのない状態になり亡くなる間際になって初めて甘い嘘をついた詐欺師たち、そしてそんな甘言を受け入れてしまった自分自身を責めながら亡くなっていくと思うと本当に悲しくて胸が張り裂けてしまいそうです。

私はこの問題が近藤先生だけの問題だとは思っていません。このような詐欺的な行為に付け入る隙を与えてしまった我々医療者にも大きな責任があると思います。正しい医療さえしていれば患者さんへの対応は二の次でも良い、そのような慢心が医師にもあったのではないでしょうか。

あと半年もすれば私も医師として現場に立つことになりますが、患者さんたちが詐欺師たちに付け入られる隙を与えないよう誠心誠意を持って対応し、自らの利益のために病気で苦しむ患者さんを喰い物にしているマスメディアや近藤先生たちのような詐欺師たちに迎合することなく淘汰できるよう、自らを律しながら医師としての責務を果たしたいと思います。

2 comments:

  1. はじめまして、もう研修医になられたのでしょうか?
    私は、近藤氏に「金もうけのために効かないとわかっていて抗がん剤を投与し患者を苦しめている」と散々言われている、腫瘍内科医です。
    1年もまえの記事と知りながら、コメントさせていただきました。
    医学生さんのうちから、このような憤りをもち、それを明晰で冷静な文章で表現されたあなたに敬意を覚えました。
    おっしゃる通りで、がん患者さんはつねに、真偽の定かでない怪しい「最新情報」に惑わされ続けており、そのストレスだけでも相当のものです。
    彼らの手口はオレオレ詐欺と一緒で、気持ちが弱って狼狽して、わらをもつかむ思いの患者さんとその家族を、甘い言葉で誘って混乱させます。
    限られた大切な大切な時間、お金、もっと有意義なことに使えたかもしれない気力・精神力を、はかない期待と絶望、不毛な検討の繰り返しに浪費させられ、最終的に「騙された、かもしれない」と悟って、悔しく、でも「騙された自分が悪い」と恥ずかしい思いを抱く患者さん。断罪されない詐欺師。
    患者さん、あなたたちは悪くないです、と本当に泣けてきます。
    初診でとうとうと、奇跡のキノコや海藻や自然食事療法の話、抗がん剤がいかに「免疫」「自己治癒力」を落とすのか、というようなお話をされる患者さんもおり、こちらが疲れてしまうようなことも今後経験されると思います。しかし、そこで大事なのは、本当にあなたがおっしゃることそのものです。医療者が患者さんと根気強く真摯に向き合うことでしか、患者さんを守れないのだと思います。
    米原万里さんの例のように、せめて自分が、そういう不幸を生み出す端緒の医師にならないようにしようと 改めて気が引き締まりました。どうもありがとうございました。

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    1. コメント、どうもありがとうございます。この記事を書いた時はまだ医学生でしたがいつのまにやら自分ももう医者になってしまいました。

      日常診療に忙殺されてしまってひとりひとりの患者さんに向かう時間がなかなか取れないこともありますが、この時の気持ちを忘れないように精進していきたいと思います。

      今後とも狭い医療の世界でよろしくお願いします。

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