Friday, July 1, 2016

これでお別れだね、STAP 細胞。ハーバード大学より愛を込めて。

2014年に小保方氏が発表、そのあまりの革新性に世間で大きな話題になった「STAP 細胞」ですが、その後、数々の論文不正が明らかになり数多くの研究機関での再現実験も全て失敗し(少なくとも我々のような科学をかじっている者にとっては)完全に終わった話となったことは記憶に新しいと思います。

しかし、その後も「STAP 細胞は実在しており『巨大な陰謀』によりその存在を闇に葬り去られた」と主張する人は常にある一定数は残り、最近また Business Journal でもジャーナリスト(と呼んでいいのか私には分かりませんが)上田眞実氏が「STAP 細胞は存在しており、ハーバード大学が利権を独占しようとしている」といった記事を公開して未だ大きな話題となっています。

その一方で、2015年2月の時点でハーバード大学が "The Final Word on STAP" (STAP 細胞はもう終わった話)と公式リリースを出していることは全く知られていません。


以下、公式リリースを日本語に訳してみました。

「STAP 細胞はもう終わった話」 
―数多くの研究者が STAP 現象を再現しようとしたが失敗、解析しても有意な遺伝子変化は認められなかった。 
2014年初頭、STAP なる現象に関する2篇の論文が Nature に掲載されたのを期にかつてないほどの大論争が勃発した。なんと、何の変哲もないただの細胞がすみやかに、しかも効率的に多能性幹細胞になり、人体のありとあらゆる組織に分化するというのだ。 
「細胞を弱酸性環境に曝露させるだけで多能性幹細胞になる」事実にしてはうまくいきすぎていると皆思ったものだ。そして実際にそれは事実ではなかったのだ。 
論文が発表されるやいなや世界中の研究者から疑問の声が聞かれるようになった。何度実験しても論文と同じ結果が得られなかったのだ。その後、Nature が中心となって小保方氏の発表した論文を調査したところ、数々の問題点とデータ偽装が明らかになり、論文は撤回されたのだった。 
論文が撤回された後も、小保方氏は「STAP 現象の核となる理論は間違っておらず、修正したプロトコルを用いれば正しい結果が得られる」と主張し続けた。そこで、ハーバード大学医学部とボストン小児病院が中心となり、最初に STAP 細胞を作成したと言われる日本の理化学研究所を含め7つの研究所が国の垣根を超えて団結し STAP 現象の再現に挑んだのだった。 
国際研究団は元々の STAP 現象プロトコルに加え、新たに作り上げたバイオインフォマティクス・アルゴリズムを用いて既に公開されていたゲノム配列を解析することにした。 
最終的に、国際研究団の再現実験をもってしても STAP 元論文に書かれていた現象を確認することはできなかった。この結果は、どのように細胞が多能性幹細胞になったかを判定する統一基準と共に Nature に掲載される予定である。 
「科学というのは目の前にあるデータを再現し、それを更に発展させることなしには成立しえません」ハーバード大学医学部生化学・分子薬理学の教授、ジョージ・Q・デイリー氏は語る。氏は STAP 論争に関する論文の共著者でもある。「そのような科学の原則を堅持することは決して簡単ではありません。我々にはかつてないほど厳格な研究倫理基準が求められていますが、その一方でこの一層競争が激しくなっている環境の中で何とか先んじて論文を投稿しようとする思いがあるのも事実です」 
さて、国際研究団がなんとかして再現しようとしていたものの中に、Oct4 と呼ばれる遺伝子の発現があった。Oct4 はほぼ全ての人工多能性幹細胞で発現しており、Oct4 が多能性獲得に必須であるというのが多くの研究者の見解となっていた。その Oct4 を確認するのに用いられるのが緑色蛍光タンパクで、Oct4 が発現していると緑色の光が観察されるわけだ。STAP 元論文でも緑色光の確認を持って多能性幹細胞が完成したと考えたようだ。 
しかしながら、デイリー研究室の研究員であるアレハンドロ・デ・ロサンジェレス氏が論文通りの方法で再現実験をしたところ、その緑色の光は Oct4 によるものではなく「自家蛍光」と呼ばれる単にレーザー光があったたことで細胞中の分子が光る現象であることが分かった。つまり、STAP 元論文では本当に Oct4 が存在している際に出る光と「自家蛍光」を区別するためのフィルターを用いていなかったのだ。実際、自家蛍光を除外するフィルターを用いて細胞を STAP 元論文通り弱酸性環境に曝露させても Oct4 の発現を示す緑色の光は確認されなかった。 
Oct4 の発現以外に多能性幹細胞の特徴してあげられるのはテラトーマの形成である。テラトーマとは良性腫瘍の一種で、幹細胞が様々な組織に分化する過程で形成される。元論文では STAP 細胞なるものからテラトーマが形成されたと主張されているが、幾度と無く行われた再現実験では小保方氏らがテラトーマと見間違えたと考えられる細胞投与の副作用による変化が認められただけで、肝心のテラトーマは一度も確認されなかった。 
さて、このように STAP 元論文を解析するにあたって、ハーバード大学医学部・臨床情報学准教授のピーター・パーク氏は元論文からオリジナルデータを抽出して解析するアルゴリズムを作り上げた。氏はこれを「バイオインフォマティクス犯罪捜査」と呼んでいる。 
発表当初、STAP 元論文を解析するのは容易ではなかった。というのも、論文内で情報が完全に開示されておらず分類もきちんとなされていなかったからだ。そこからパーク氏のチームが情報をかき集めたところ、1ヶ月もしない内に STAP 元論文の問題点が浮かび上がってきた。 
パーク研究室に所属しているポスドクであるフランチェスコ・フェラーリは同僚と共に STAP 元論文に記載されていた遺伝子発現情報から STAP 細胞とされる細胞の遺伝的変異を特定し、小保方氏らが STAP 細胞といっていたもののほとんどで材料となっていた元の細胞と遺伝子情報が全く異なっていたことが分かったのだった。中には元の細胞と STAP 細胞で性染色体が異なるものさえあった。更には、STAP 細胞から分化した細胞は ES 細胞と胎盤由来幹細胞双方の特徴をもつとした論文の解析では、STAP 細胞からの生成物とされていたものがなんと小保方氏の研究室にあった細胞株を混ぜただけであることが判明したのだった。 
「Nature などの科学ジャーナルは最低限の話として適切な注釈をつけること、論文内のデータを速やかに公表すること、これらを論文投稿者に遵守させるべきです」とパーク氏は語る。「それだけで今回の STAP 騒動のようなことが二度と起こらないとは言いませんが、安全策にはなりますしそれくらいすぐにできるはずです」 
氏はこれら一連の STAP 論文の検証において遺伝子情報解析がいかに重要であったかを強調し、こうも続けた。「もし小保方氏や共同研究者、さらには Nature の査読者が遺伝子情報解析におけるきちんとした知識を持っていたら、実験結果をみて STAP 細胞仮説が誤りであったともっと早く気付けたはずです。そうすれば世界中の研究者が再現実験にあんな膨大な時間を割かなくてもよかったのに」 
最後にパーク氏と共にハワード・ヒューズ医学研究所で STAP 論文の検証にあたったデイリー氏はこう語った。「結局のところ、我々は科学におけるチェック機構をもっと厳しくしてあるべき姿を保つしか無いのです。論文をたくさん書いてたくさん投稿してたくさん研究費をもらってとやっている間に、どれだけ心ある研究者でもいとも容易く認知的バイアスに陥ってしまうわけですからね」

いかがだったでしょうか。これを読んだ上でまだ STAP 細胞があると考えるのはなかなか難しいのではないでしょうか。上田眞実氏は熱心にハーバード大学は STAP 細胞研究の成果を小保方氏から奪おうとしているなどと主張していますが、それとは裏腹にとっくの昔にハーバード大学は実に冷酷に STAP 細胞との決別を終えていたのでした(ところで論文も英語も読めない科学ジャーナリストは一体何を報道するのでしょうね。噂でしょうか)

我々医療者や科学者から見ると完全に「終わっている」STAP 細胞がどうして未だ一定の人々から期待を持たれているのか非常に興味深い現象ではありますが、きっと「信仰」の領域に入っているのでしょうからそちらはご専門の方にお任せします。

かくして科学としては死んだ STAP 細胞仮説は、心の拠り所 STAP 教として今再び日ノ本に蘇り、民々に希望の光を灯し続けるのでした…。

「STAP 細胞は、皆の心のなかに、ありまぁ〜す!!」

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